大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

青森地方裁判所 昭和25年(行)25号 判決

原告 佐々木栄吉郎

被告 板柳町農地委員会

一、主  文

原告の請求は相立たない。

訴訟費用は各自弁とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和二五年一月三一日した訴外青山浅次郎所有の青森県北津軽郡板柳町大字赤田字桂七七番畑八畝一五歩、同上七八番畑四畝一二歩、同上七九番二号畑六反五畝四歩に各生立する林檎樹及び同所同番三号畑三畝四歩二合五勺を目的とする自作農創設特別措置法第三条第一項第一号、第六条の二所定の買收計画決定及び同法第一六条、第一八条所定の売渡計画決定(買受人訴外笹仁太郎)が何れも存在しないことを確定する、との判決を求める。若し右各計画決定が存在するときは『右各計画決定を取消す』との判決を求める」旨申立て、その請求の原因として原告は、(イ)昭和一三年三月一八日訴外青山要次郎から同人所有の青森県北津軽郡板柳町大字赤田字桂七七番畑八畝一五歩、同上七八番畑四畝一二歩を、(ロ)昭和二一年一月一七日訴外青山浅次郎から同人所有の同上七九番二号畑六反五畝四歩、同所同番三号宅地九四坪二合五勺を各買受け各即日所有権の移転及び引渡を受けその登記手続を完了した。そしてその後右畑三筆に林檎樹を植裁耕作して今日に至つた。然るに被告は「右畑三筆に生立する林檎樹及び宅地一筆は何れも訴外青山浅次郎の所有に属し且つ宅地は現況畑であるところこれらの立木及び畑につき、請求の趣旨記載のような買收及び売渡各計画決定が成立存在する」と主張し右立木及び宅地に対する原告の所有権を当初から否定し、右手続を強引に続行し右権利を侵害しよつて以て原告に重大且つ回復不能の損害を加えつつある。併し乍らかような買收及び売渡各計画決定は本來全然存しない。よつて先づ該各計画決定の不存在確認を求める。仮りに右各計画決定が成立存続するものとしてもこれらの決定には次のような違法不当の廉がある。(イ)右各計画決定には何れも買收及び売渡の時期竝びに対価の定めがない。又、(ロ)前記宅地九四坪二合五勺が公簿上は勿論現況も宅地であるに拘らず、これを畑として取扱われている。(ハ)原告は昭和二一年一月笹仁太郎に本件土地を單に一時賃貸の約で引渡したに過ぎないに拘らず同人は狡猾にもこれを無視し、信義に反し本件買收計画決定請求及び買受けの申込をしたところ、被告は漫然これを許容して本件各計画を樹立した。なおかような計画を実現するときは本件畑(仮りに右宅地も亦本件各決定が認めるように現況畑だとして)の所有者たる原告の生活状態が小作人たる笹仁太郎のそれに比し、著しく惡化するばかりでなく、本件農地から仁太郎の住居又はその農耕地に至る距離よりも原告のそれに至る間隔の方が遙かに小であり從つて本件農地を原告が耕作する方が、仁太郎が耕作するよりも著しく便利であるに拘らず本件各計画作成はこれらの事情を頭から無視して爲されたものである。(ニ)本件立木及び土地は本件買收計画決定当時原告の所有に属したに拘らず、右計画決定は右立木及び土地が訴外青山浅次郎の所有物だとして爲されたものである。(ホ)右買收及び売渡各計画決定には買売価格の定めがない(尤も昭和二五年二月二〇日後記異議申立棄却決定は本件立木中、字桂七九番二号畑に生立する林檎樹の買收価格は苗木の価格、同上七七番、七八番畑に生立する林檎樹は反当り金二六〇〇円である旨説示しているが、かような価格は著しく不当な廉価であり故なく原告の財産権を侵害するから憲法第二九条に牴触し、当然無効である)。

そこで原告は昭和二五年二月九日被告に対し右各計画決定につき異議の申立をしたところ、同年同月二〇日申立棄却の決定を受けた。よつて原告は更に同月二八日青森県農地委員会に右決定に不服として訴願を提起したところ、爾來四箇月以上も経過したに拘らず今以て何等の音沙汰に接しない。よつてここに違法不当な本件各計画決定の取消を求めるため本訴に及ぶと陳述した。(立証省略)

被告訴訟代理人は原告の請求は何れも相立たない。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として現在原告主張のような買收並びに売渡各計画決定が存在しないことは認めるけれども、被告は現在毫も右各計画決定の存在を主張するわけではないから、原告が本訴を以て右各計画決定が存在しないことを即時確定するよう訴を以て請求する法律上の利益は寸毫も存しない。即ち、被告が昭和二五年一月三一日自作農創設特別措置法第三条第一項第一号、第六条の二に則り、原告所有の青森県北津軽郡板柳町大字赤田字桂七七番畑八畝一五歩、同上七八番畑四畝一二歩、同上七九番二号畑六反五畝四歩に各生立する林檎樹及び同所同番三号畑(但し土地台帳では宅地)九四坪二合五勺が何れも訴外青山浅次郎の所有に属するものとしてこれを目的として買收計画を樹立し且つ同日同法第一六条、第一八条により買受人を訴外笹仁太郎とする売渡計画を作成したところ原告主張のような異議の申立及び該申立棄却決定があつたけれどもその後調査の末、右立木及び土地の本件各計画樹立当時の所有者は訴外青山浅次郎ではなく、原告であることなどが判明したため、同年四月一四日右買收計画決定及び異議申立棄却決定を、何れも議決を以て取消し同月二八日青森県農地委員会からその承認を受けた。從つて原告主張のような訴願の提起があつたこと及びこれに対し青森県農地委員会の裁決がまだ爲されていないことはこれを認めるけれども本件買收計画取消決定は前記訴願の裁決以前即ち本件買收計画決定の確定以前に有効に爲され、右取消により本件異議申立棄却決定及び買收計画決定は当初に遡つて無効に帰し、從つて又右各決定の有効であることを前提とする本件売渡計画決定も亦当然消滅に帰した。よつて被告が右各計画決定の存在を依然主張することを前提とする原告の本件買收及び売渡各計画決定不存在確認請求は裁判上の請求を以て即時確定を求める法律上の利益を欠如するから理由がないとして排斥を免れない。

若しそれ本件取消の請求の如きに至つては叙上のように取消の対象たる行政処分が最早や存在しない以上その理由がないことは勿論である、と陳述した。(立証省略)

三、理  由

現在原告主張のような買收計画決定及び売渡計画決定が何れも存在しないことは当事者間に爭がない。

よつて右各計画決定の不存在確定につき原告が訴を以て即時確定を求める法律上の利益を有するかどうかにつき一考するに、原告主張のように右買收及び売渡各計画決定に対する異議申立及び申立棄却の決定があつたことは当事者間に爭がないところ成立に爭がない甲第一号証の一、二第二号証の一、二、三を綜合すれば、被告はその後調査の結果本件立木及び土地の本件買收計画樹立当時の所有者は訴外青山浅次郎でなくて原告であり、從つて本件各計画作成が事実に即せず且つ該作成が買收の時期及び価格等の定めを遺脱していた等主要な点につき手続上の欠陷があつたことが判明したため、昭和二五年四月一四日本件異議申立棄却決定及び買收計画決定を何れも被告委員会の議決を以て取消し、同月二八日該取消につき青森県農地委員会の承認を受けたことを肯認するに足り右認定を覆すことができる証憑は一も存しない。

惟うに凡そ本件買收計画決定のような片面的行政行爲は少くもその未だ確定しない間即ち、法律上異議、訴願、訴訟により不服を申立てその存在又は効力を爭うことができる間は該行政行爲により権益を享受する筈の第三者を決定的に害するものと未だいうことができないから当該行政行爲をした行政廳は該行政行爲を取消すことができるものといわねばならないところ、本件において原告主張のような訴願の提起があつたこと及びこれに対し訴願裁決廳において未だ何等の裁決をしないことは何れも被告の認めるところであるから叙上本件異議申立棄却決定及び買收計画決定は未だ確定せずしかもこれらの決定により第三者が未だ決定的に権益を受けたわけでもないものといわねばならない。然らばこれら行政行爲の取消は固より有効で右取消により本件異議申立棄却決定及び買收計画決定は各その成立の当初に遡て無効に帰し延いて右各決定の有効であることを前提とする本件売渡計画決定も亦その成立の当初に遡及して当然無効に帰したものといわざるを得ない。(本件売渡計画決定は本件買收計画決定と同時に爲されたことが前認定の通りである以上、本件売渡計画決定は右買收計画決定以後売渡計画決定に至るまでの諸手続殊に買收計画決定の公告、県農地委員会の承認等一連の行政行爲が爾後有効に成立することを停止条件として爲されたものと解するの外はなく、そして元來かような停止条件附行政行爲が法律上有効であるかどうかにつき若干疑義が存しないわけではないけれども所謂農地改革制度は精確に運営されねばならない反面、極度に手続の敏速、円滑從つて又便宜を尊ぶ建前からいうと積極に解するを妥当とする。)

果して然らば原告が本訴を以て右両計画決定の不存在確認を求める法律上の利益を欠如することは勿論である。

若しそれ、本件両計画決定取消の請求の如きに至つては、叙上認定のように取消の対象たる行政処分が当該行政廳の適法な自発的取消により最早や存在しなくなつた以上同請求は、訴訟物の欠缺により当初からその目的を失つていたものといわざるを得ないからこれ又その理由がないものとして排斥される運命を免れ得ない。

よつて原告の本訴請求を失当として棄却し訴訟費用の負担につき行政事件訴訟特例法第一条、民事訴訟法第九〇条、第九五条に則り主文の通り判決する。

(裁判官 中川毅 工藤健作 高沢新七)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!